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SanRen 対談
「ベンチャーを目指す学生たち」

「SanRen 対談」 は、産学連携に関するテーマで対談していただくコーナーです。

経済不安をはじめ、転職の常習化などから、企業不信や雇用不安といった傾向もある中、価値観の多様化とともに、人生を選択するコースも多様化しています。そんな昨今を反映してか、社会の問題や起業に関心を持つ学生が増えつつあるようです。今回の対談には、事業化推進部部長の各務茂夫教授と、㈱東京大学エッジキャピタル(UTEC)の郷治友孝社長にご登場いただき、最近の学生気質をはじめ、東京大学アントレプレナー道場(以下、アントレプレナー道場)の活動状況や、いまどきのベンチャー事情について、ざっくばらんにお話ししていただきました。 〈2012年4月12日取材〉

産学連携本部事業化推進部部長の各務茂夫教授(左)と、㈱東京大学エッジキャピタル(UTEC)の郷治友孝社長(右)
産学連携本部事業化推進部部長の各務茂夫教授(左)と、㈱東京大学エッジキャピタル(UTEC)の郷治友孝社長(右)

アントレプレナー道場のいま

産学連携本部事業化推進部部長の各務茂夫教授

各務:アントレプレナー道場が始まって、今年でもう8年目になります。相当数の学生が実際、起業しています。このアントレプレナー道場ですが、ベンチャー云々ということであまりとられてなくて、もちろん、ビジネスプランを描く練習をするいい機会だと思っていますけれど、本質的には会社を創るための教育ではなく、問題を発見して定義し、解決し、時には少し力づくでもそれを解決できるような胆力を持つ訓練をする場として捉えています。それはあたかも、誰もが水泳を学ぶのに似ていて、私は“水泳論”だと思っているのですが、人生のどこかで必ず勉強しておかなければいけないもの、いつ役立つかはわからないけれども、溺れなくてすむよということですね。

 そういう意味でいうと、起業家教育やアントレプレナー道場も、あてがわれた問題を解決するのではなく、問題を発見していく、あるいは、どこに問題があるかを自分で認識して、それに対して自分で何ができるだろうかとか、既存の解決法に比べて、もっといい別のやり方があるんじゃないかと考えていけるような機会を持つ場として、この道場を捉えています。

 結果として、かれこれ40人から50人くらいはベンチャーを起業したり、ベンチャーに関わっているのは事実であって、東大生が軒並み全員ベンチャーかといわれたり、スタンフォード大学なんかと比べてどうかといわれると、もちろん比較はありますが、アントレプレナーシップ旺盛な学生がずいぶんと出てきていることは間違いないですね。卒業生室等の集まりに、それなりの人数が集まっていることからも、かなりポジティブな状況になっている感じもします。

 また、就職先は大企業か役所かというと、学生の考え方もずいぶん違ってきて、役所にいる方も、もちろん優秀だけれども、同時に大企業がどうか、あるいはそれに比べてベンチャー企業がどうかと、少し合理的に計算づくで考えると、大企業に就職する、役所に就職する、それからベンチャーを興すといういろんな選択肢の中で、自分が選択したそのリターンに対する、ちょっとかっこつけでいうと、ペイオフマトリックスが変わりつつあるような感じもするんです。

 最初からベンチャーをやるというのは、私なんかもあまりお勧めできることじゃないかもしれませんが、少し準備をしながら、一時は会社勤めをしたり、いろんな勉強もし、コンサルティング会社にも入り、そうこうしているうちに、仲間と一緒に「何か新しいことやってみようや」と、そういうような機運を、起業した私自身は感じましたね。

 郷治社長からご覧になって、その辺はいかがですか?

㈱東京大学エッジキャピタル(UTEC)の郷治友孝社長

郷治:アントレプレナー道場が設けられるということで、各務先生はじめ数人の産学連携本部スタッフと議論していた当時の資料を調べていたら、当時はまだ、産学連携本部ができたばかりだったこともあり、どちらかというと、社会との連携という第3の軸については、研究活動との橋渡しが強調されていましたね。ただ、それに対して教育面でも社会との連携、要は実践人材については、水泳ができておぼれないような人材という話がありましたけれども、人材を伸ばすようなことができないかという議論が当時、ありました。

 各務先生は各務先生で考えておられた中で、当時、ともに議論する中で、ビジネスプランコンテストとか、アントレプレナー道場と広がっていきましたが、実際に起業した学生が多数いて、それ以外にも、問題意識を叩き込まれて卒業していくような学生も出てきているということで、非常に意義深いものに発展させておられ、すごいなと思いますね。

 当社の投資も、それにつながるようなことができればと思っています。今のところまだありませんが、起業している卒業生が4、50人になってきているということで、実際につながっていく可能性もあるのかなと思いますね。

 そうはいっても、学生の間ですぐに起業するのがベストかというと、IT系などの分野を除いてはなかなか難しい面もあるので、人生の中長期的なプランの中で、起業を自分の人生の中にどう位置付けるかということも大切かなと感じています。

ロールモデル

各務:最近は、東日本大震災を契機にして、ボランティア活動や、NPOを含め、中央政府ができなかった分を補うように、震災へ向けたボランティアなどのさまざまな活動がなされたり、ボランティアで支援するいろいろな組織が本学の中にもできて、社会の問題に対して活動したい、人と人をつなぎたいという学生の意思が示されました。実際に活動しようと思うと、ひとりよがりでウエットな気持ちだけじゃ実行できない。

 濱田総長がよくおっしゃっているタフな学生、別の言い方をするなら、したたかに物事を見ながら、現実的に問題を解決していくということですね。そういった部分を、アントレプレナー道場を通して学んでもらったり、お金がちゃんとぐるぐる回って帳尻合わせが効く本質などを一度経験できれば、仮にベンチャー企業を作らなくても、大企業や役所勤めであっても、研究職であっても、素晴らしいことかなと思っています。

 震災を契機に、世の中の流れが少し変わってきたことに加え、昨年は文京区とも連携して、「社会起業家」なんていう、社会の問題をどう解決するのかという取り組みも行いました。学生の中で、社会起業に対する関心がずいぶん強いということもありますし、少し大げさな言い方をすれば、社会起業がまだ十分に顕在化していないとしても、昨今のアメリカのイノベーションを見れば、Googleのラリー・ペイジとか、Facebookのマーク・ザッカーバーグまで、学生が起こしたベンチャーが世の中を変えているのは事実であって、これが東大にできないわけがないって鼻息荒くいってるんですが、そういうことに応えてくれる学生が将来、本学からも出てくるんじゃないかなと思っています。

郷治:当社が起業に関わり、実際に起業したのはpopIn㈱ (文京区本郷=程涛代表取締役)ですね。現在では、ニュースメディアを50社ほど顧客として獲得するまでになり、彼らが開発した検索サービスは読売新聞や毎日新聞等のWebサイトで実際に使われています。他にも、大手不動産サイト「HOME’S(ホームズ)」でも採択されました。

 彼は留学生だったハンデもある上に、日本の実社会とのやりとりの経験が少ない中で、会社を立ち上げてから初めて学び始めたという部分もあって、プログラムや教育の中で、起業とはこういうものだというふうにイメージを膨らませながらも、実際に起業して初めて理解できる世界があったようです。当社は投資を通じて、そのプロセスを応援しているわけですが、なんていいますか、成長を感じますね。

各務:郷治社長が手掛けられたベンチャーに、㈱モルフォ(文京区後楽=平賀督基代表取締役社長)がありますよね。平賀社長は東大理学部の大学院でPh.Dをとって、実際の創業は卒業後2年目でしたが、その間、企業に勤めて武者修行をされ、その2年間をベースにして創業されました。その間、多分、いろんな修羅場をくぐられたでしょうけれども、結果的には立派な経営者になって、昨年7月に上場されましたが、そういうロールモデルが出てきていることも確かですね。

 また、これもUTECが投資をされた、ライフネット生命保険の岩瀬大輔代表取締役副社長は、マスコミに対するエクスポージャーが高い。岩瀬さんのような優秀な存在は重要なロールモデルであって、頭がとんがってるばかりじゃなく、情もあり、熱いモノを持っている、そういう会社が上場し始めたことで、ロールモデルができつつあり、学生の意識も変わりつつあるんじゃないかなと思いますね。

郷治:モルフォの平賀さんの武者修行という話がありましたが、popInの程君も学生時代は20社くらいでアルバイトをしていました。当時、プログラマーとしていろいろな会社で仕事をしていたようですが、その当時の人脈を現在のビジネスに活かしています。そういう武者修業的な経験を活かして、実際の自分の起業に結び付けるのはすごく大事ですし、また、アントレプレナー道場のような場は、いろんな方と知り合うことができる、とてもいい機会だと思います。

超高成長体験がベンチャーマインドを育む

産学連携本部事業化推進部部長の各務茂夫教授

各務:この前、グリー㈱の田中良和社長にお会いした際に、なぜグリーっていう会社を創業したかというお話を聞いたんですが、やっぱり楽天㈱にいたときの経験が大きいっていうんですね。

 田中社長は1977年の生まれですが、失われた20年といわれる閉塞感がある時代の中でずっと過ごしてきて、一度も高成長を経験した経験はないわけです。田中社長の場合は起業できたわけですが、「重要なのは、一度でいいから、ものすごく高成長っていうものを経験するのが重要なんだ」というんです。

 高成長というのは、ある種、いい加減なところもあり、熱いモノに浮かれるところがありといった、混沌と夢がミックスしたような世界ですよね。かつては役所にもこういうものがありましたし、私が以前、会社を創った当時は、たった数年の間に100人くらいの社員が入社してきていましたが、そういう経験がある人は、それをステップにのれん分けして、自分の会社を創るんですね。フェアチャイルドなんかもそうですよね。短期間でものすごい社員数になって、そこからインテルも生まれています。

 高成長の体験というのは、実はベンチャーを育む上ですごく重要なんです。田中社長はそんなに長く楽天にいたわけではないんですが、その時にやはり感じたというんですね。熱いモノに取りつかれたような感覚を経験すると。ですが、こういった経験は日本の大企業の中では難しいですね。私自身も以前、会社を創った経験や感覚があるのですが、会社を創ることは一種、独特の魅力があるというか、取りつかれるような感覚を覚えるところがあります。

郷治:私が今の仕事に関わることになった原体験についていえば、通商産業省(現経済産業省)入省2年目に、ベンチャーファンドの根拠法になった「投資事業有限責任組合法」という法律の起草に携わったことでしょうね。

 通常、省庁で法律の策定作業をする際には、「タコ部屋」と呼ばれる部屋に、十数人の法律を作る人間が集まって共同作業をするんです。しかしその当時、私は外局の中小企業庁にいたのですが、あまりベンチャーファンドが注目されていなかったためか、当時の課長と課長補佐、そして係長である私の3人だけで作業しました。

 ベンチャーキャピタルや投資業界、起業家といったさまざまな業界の方や法律家、会計士の意見をとりまとめながら、他省庁や政治家とやりとりをしながら法律案を作っていくプロセスは、官僚的な意思決定というよりは、すごくやりがいがありましたし、興奮して熱くのめり込んでいました。

 その後、当時の3人は、結果的に、私も含め、それぞれ役所を辞めて民間に出ました。皆、そのときに感じた、会社や事業を創ることの魅力に取りつかれて退官したのではないかと思いますけれども。

各務:田中社長の言葉を借りると、「超高成長」なんて言い方してましたね。そして実際にいま、田中社長が実行されていると。オフィスを六本木ヒルズに移されましたが、グリーのオフィスは東京で最大のワンフロア面積を持っているんですね。従業員が現在1,000人近くいて、グリーがまさにそういう“超高成長”の状況にある。そこから恐らく、のれん分けして新しい会社が生まれるという、連綿たるベンチャーのつながりを持ってくるんじゃないでしょうか。

郷治:そういう高成長を、アントレプレナー道場や大学の何らかの事業で経験できたり、プログラムでできるような場が増えるといいですね。

各務:今年の入学式で、総長が学生に、「タフであれ」とおっしゃっていましたが、ある意味においては、少し現実的に、経済性もちゃんと帳尻合わせが効くように実行すること、それから、現実の問題をしっかりと観察できる原体験のようなことがすごく重要なんですね。

 MITなんかに行きますと、アントレプレナーシップラボラトリーといって、工学部の学生とビジネススクールの学生ふたりずつで4人組みになり、ベンチャー企業にインターンシップに行くことで単位が取れるコースがあるんですが、こういうことをぜひ本学でも取り組んだらと思うんですね。

 なんていいますか、すべてにストラクチャーがあってやっているわけではなくて、朝令暮改もいいところで、そうはいっても前に進まなきゃいけない、でも全体につながるような通奏低音の物事の考え方といいますか、そして、それがビジョンとして提示されている会社がいかに成長していくのか、そういう経験を本学の学生もできるといいかなと思いますね。

郷治:母校であるスタンフォードビジネススクールのプログラムのひとつに、夏休み中に外国の企業だとか非営利団体(ノンプロフィットオーガニゼーション)へ行って、実際に仕事を経験するプログラムがありました。私自身はしませんでしたが、派遣先の一定の評価を得ると、一定の単位になるようでしたね。

イノベーションとは、企業でモノになる大学の技術

㈱東京大学エッジキャピタル(UTEC)の郷治友孝社長

郷治:当社が支援しているベンチャー企業の中でも、起業する年代はIT系では20代がひとつのピークで、他方、シニアは60代とか定年退職あたりの年代の方が多いんですよ。シニアベンチャーでは、大手メーカーの立派な職についていた方が電池分野の会社を興した例や、国の研究所でバイオ分野の研究リーダーをされていた方が、グリーンイノベーション分野のベンチャーを興された事例もありますし。

各務:大企業をスピンオフした優秀な人材がベンチャーを興すような、ある意味、ベンチャーの循環が、日本でもどんどん起こったらいいですよね。大企業を敵に回すというんじゃなくて、大企業の中で培ったものをベースに新しくして、そして一緒にやっていくようなね。大企業の中で取り組むには規模が小さな事業は、なかなか大企業の中で取り組めませんから。

 中には、社内ベンチャーっていう制度もありますし、最近は日本的なモデルかもしれませんが、例えば、大企業と東大の共同研究をベースにして培ったものを事業化するといったこともありますよね。大企業全体の中で見ると少し小さく見えるし、リスクがある部分もある。それを分離して、切り取って、そこに大企業もお金を入れるけど、むしろベンチャーキャピタルもお金を入れる。

 これは、今年3月に開催されたAUTM(米国大学技術管理者協会)の会議でも多かったテーマで、コーポレートスポンサー出費とベンチャーキャピタルのジョイントインベストメントの話が、アメリカでもずいぶん議論されているんですが、こういうのもありうるのかなと思いますね。

郷治:当社の投資先でも、そういう事例が増えていますね。ベンチャーキャピタルモデルというと、昔はベンチャーキャピタルだけでお金を入れますっていうのがかなり多かったように思うんですが、やっぱり事業化なり、商品化までちゃんと先を見据えると、なるべく早くから事業法人の知見が計画に反映されたほうが成功確率も高まりますし。

 産学連携本部に関する新しい方向性について、最近、議論が行われていますが、事業化推進も共同研究も、ひとつのイノベーションに向かって進むという点では同じ認識の中で、シナジーをより追求する流れになっているように思うんです。

各務:基本的にそういう方向に向かっていますね。私が例えとしてよくいうのは、Googleが去年、69社の企業を買収したことなんです。基本的にはベンチャー企業を中心に買ったわけですが、Googleからしてみれば、本当にいいものであれば、大学と一緒にやるのもよし、これから新しく知財を作る共同研究がよければ、どこかの大学からライセンスを受けるのもいいでしょうし、同時にある程度、リスクを取り除かれたベンチャー企業がモノになったら、途中でその企業を買収するのも全部イコールだとすると、基本的にベンチャーの活動であろうが何であろうが、結局は企業でモノにしてくれなければ、大学の技術っていうものはモノにならないってことなんですね。

 そういうふうに考えると、共同研究をやるのもベンチャーでするのも知的財産の活動そのものも、最後はイノベーションじゃなきゃいけないと。逆にいうと、共同研究をしたっていうだけではイノベーションになっていないので、もっとのりしろ出して、「あれどうなったんですか」って聞かなきゃいけないんです。作っただけで、その後、大企業でモノになったっていう話をあまり聞いたことがないという話もありますし。

郷治:先日、文科省が平成24年から開始する「大学発新産業創出拠点プロジェクト」の事業プロモーターに選ばれたのですが、このプロジェクトは大学発ベンチャーの起業前の段階から政府資金と民間の事業化ノウハウなどを組み合わせることで、リスクは高いけれどもポテンシャルの高いシーズの事業化を目指すものです。

 UTEC創業以来、8年間にわたる東大を中心とする活動に加えて、基礎研究の早い段階から研究者とコラボレーションし、会社を創り、事業化して売り上げを立て、売り上げを伸ばすところまで面倒を見てきた、当社の事業育成モデル自体を広げていくことが期待されたのだろうと思います。文科省のサポートをいただきながら、そういった活動をより深く行っていこうと思っています。

 予算については、事業プロモーターに直接くる部分はそれほど大きくないのですが、事業プロモーターが支援したいプロジェクト(研究活動)を行っている大学の部署、研究室には相当額の予算がつきます。事業プロモーター自体は推薦をする立場なのですが、一方で、推薦した後に、その研究成果が事業に結びつくようにモニターするのも役割のひとつで、そのプロジェクトの採択後の支援が期待されています。

 今年は7プロモーター全体の支援プロジェクトに対して13億円の予算がつきますから、単純に7で割れば、1プロモーター当たり2億弱。それだけの予算がつけられるのは、かなり大きいと思います。

各務:事業化を推進していただく面については、産学連携本部事業化推進部としても、郷治社長の事業プロモーションがうまくいくような形の連携ができればと思っています。

郷治:当社としても、事業化推進部にはより関わっていただけると有り難いです。こういった金融環境の中で、機関投資家がベンチャーキャピタルファンドに資金を振り向け続けられるか不透明になりつつある昨今、ベンチャーキャピタルだけで研究開発や初期の事業資金を全額出すのではなく、こういった文科省の政策支援や、事業法人とのコラボレーションを早めに活用できるようになっていけばと思っています。

オープンイノベーションへ

産学連携本部事業化推進部部長の各務茂夫教授

各務:日本政府とアメリカ政府、とりわけ経産省と米国国務省が中心になって、いかにイノベーションを図るか、しかもベンチャー企業を通じた新技術の商業化を促進するためにどのような協力ができるかを模索しようと、「日米イノベーション・アントレプレナーシップ・カウンシル」が設立され、今年の1月25日に初の政府間協議が行われました。

 アントレプレナーシップで経済発展にどう結びつけるかについて、お互いに協力しあえることを一緒にやっていこうということで、将来の繁栄は市場に新技術を送り出すことにかかっていることを認識し、両国政府がさらなる雇用と経済成長を生み出すために、起業を通したイノベーションを育成する試みの強化が目標とされているのですが、日米それぞれ10名ずつが委員会のメンバーになっていて、私もその一員に入っています。

 私とスタンフォード大学の研究者で、ある程度の原案を作ることになっていまして、その過程で、いくつかの問題があるんですけども、それこそ広く考えると、いかにして成功のロールモデルを作っていくかとか、あるいは、賞賛性の文化を日本の中でどう作っていくかとか。また制度的に、ギャップファンドをどううまくやるかとか、こういう大体的な政策も出てきていますから、たとえば、産業革新機構の在り方みたいな話などは互換性があると思います。

 アメリカ人なんかにいわせると、ベンチャーの世界において、政府は精神論としては押すけれども、あまりハンズオンでやるんではなくて、ハンズオフにしたっていう議論があるんですね。ただ一方で、ある程度の資金は出してもらって、マーケットメイクするときに、変にミスリードしないようなやり方が望ましいかもしれませんね。

 郷治社長の会社ではやってくださるんだけど、ある程度のところまでいったら、上場まで後押ししてくれるような資金の出し方をしてくれればと思うんです。

郷治:最近は産業革新機構の方でも、シード段階のベンチャー企業に対する支援を活発にしようと検討がなされているようですね。ベンチャー企業に向かうリスクマネーが限られてきている中で、そうした方向性はよいことだと思います。他方で、産業革新機構が直接ベンチャー支援をすることが、草の根からベンチャー企業を支援しようとする民間ベンチャーキャピタルの地道な活動をクラウディングアウトしないような手だても検討した方がよいでしょうね。

各務:制度論として、ギャップファンドの話とかあるんですが、やや極端なことをいうと、産業界とうまく連携して、それこそエントリーシートに、「あなたは社会において、どんなことが問題だと思っていますか。解決策を述べよ」とかね。就活とかに結びつけるのが手っ取り早いところがありますよね。

 ベンチャー企業を創る際に、会社を創ると失敗して連帯保証人になって、なんていう、かつての事例は少なくなってきて、若い起業家の中に悲壮感はなく、ましてや郷治社長のところで連帯保証なんて求めていないですよね。若い人から見たら、バイアウトして、ある程度、成功したら次のことやりたいとかいうようになってきている。起業家の中でも、かつて悲壮感をもってやった意識がずいぶん変わりつつあるんじゃないかなと思いますね。

 知恵があって、力量がある人に資金がついて、それを結び付けるような証券市場のようなものがあってっていうのが、正直な懇願だとすると、いままさに、若い起業家の中に、そういうロールモデルで行くような人たちが集まりつつあるように感じますね。

 東大のホームカミングデーで以前、ライフネットの岩瀬さんに講演してもらったときに、卒業生からの質問に答えるかたちで、「私が会社を作ったときは悲壮感があった。連帯保証人にもなった」なんていう話をされたときに、「いまはそんなことないので気にしないで」なんていってましたが、けっこうさばけてきているように感じています。

 それともうひとつ、クラウドの世界になってきて、ネット系のビジネスを始める際に、初期設定や初期投資がいらないために、エントリーバリアが低くなってきていることがありますね。ただ、ある時期、スピード感を持ってパッとやって、そして論理する過程は必要かもしれませんが、インターネットの世界というのは、マーケット調査して自分で考えてやるんじゃなく、全部出してどれがいいのっていわせて、これがいいって反応があったらそれでやっちゃうみたいな、そういうゲームに変わりつつあって、ネットビジネスの場合は特に、スピード感と対話のインタラクションのスピード感みたいなものが結するみたいなものがあるかなと思いますね。

郷治:スピーディなところとか、過去の経験にとらわれずに新しいことをやれるっていう意味では、ITは若い人に向いているのでしょうね。しかし他方で、バイオや素材、メーカーなどは、いろんな人たちの共同作業や協力が必要になるので、若手の学生がポンと飛び込んでいっても無理なところがあって、そういう業界で活躍する場合は経験を積んでいかないと難しいでしょうね。

各務:そうですね。バイオとかモノづくり系となると、ベンチャー企業が単独で最後までいっても、半導体の例を見ればわかるように、難しいと思うんですね。そうした場合、ベンチャー企業におけるリスクを、あるところまで取り払った状態で大企業がすくい上げ、かつ、ある程度の価格をちゃんとつけるというマーケットを形成し、これをベンチャーキャピタルも担いでやっていくことができると、日本の大企業とベンチャー企業、そして大学間における全体のオープンイノベーションのメカニズムが働いてくると思うんです。そのあたりがひとつ、チャレンジかなと思いますね。

㈱東京大学エッジキャピタル(UTEC)の郷治友孝社長

郷治:そこはぜひ、当社の活動の中でも成功させたい分野です。現在までに、画像処理の㈱モルフォや、医療サービスのテラ㈱といった成功事例が出ましたが、一番難しいマテリアルや創薬などは、まだ時間がかかります。これらはどうしても、大企業の協力がなければ成功は難しい分野です。

 しかし、それらの分野でも、上場に向かっている投資先はありますし、うまくいけばあと2年以内に、リアルベンチャーというか、大企業群を巻き込んで難しい付加価値を創出する成功事例が出てくるだろうと期待しています。

各務:そういう意味で考えると、かなりポジティブなことが起こりつつあるように思いますね。大企業もコーポレートガバナンスのプレッシャーを抱えすぎると、ある程度、収益も追わなきゃいけないけれども、その一方で、同時にイノベーションってことになる。帰結は、リスクをとるのはベンチャー企業にやってもらって、ある程度のところまでいったものをアクジッションしていく流れになってきていますね。

 日本のエレクトロニクスメーカーにしてもどこにしても、そういう流れをどう取り込んでいくかということに、おそらく早晩なるんじゃないでしょうか。そこそこの技術を持った日本のベンチャー企業が、それなりのエグジットをいい形で迎えて、大企業の中で華を咲かせるようなことがあってもいいと思いますね。

郷治:アカデミアと産業界には、残念ながら、相互不信のようなものが内在していて、いかに相互信頼の橋をかけるかが難しい作業です。

 うまくいっているベンチャー企業の場合は、そういった信頼関係がうまくできているんですが、大企業の方にもかなりアレルギーがあるようで、大学教授が取締役に入ることはありえないなどと、いわれることもあるわけです。でも、大学教授は教授で、大切な技術を外に出したくありませんよね。そこをどう調整できるかがとても大切になってきます。

各務:教員が入っていい側面もあれば、あまり入りすぎてしまって、研究室の延長線上みたいになり、いつまでたってもビジネスの匂いがしないベンチャー企業のままであるとすれば、これに歯止めをかけるのはベンチャーキャピタルかもしれませんね。ハンズオンでやっていて、なかなか目利きがたたない場合や、有名な教授を信頼する一方で、論文は出されても技術がないとなると、反省点はやはりありますよね。

郷治:確かに、過去に研究室の延長のままで終わったベンチャー企業はありますが、大学教授だからといって一概に、経営にはタッチするな、事業にはタッチするなというのは間違いであって、例えば、サイエンスの大家であれば、その大家の強みをうまく活用しながら、ビジネスとしても成功させるようなコラボレーションが、産業界と大学の間でできればいいですね。

各務:その道に精通した教授がいて、ビジネスの匂いがしてと、両方とも強いものがないといけないですね。どちらも強いから、ものすごく高まっていいものになるのであって、両方とも弱くてもだめでしょうし、ビジネスが先行しても、研究者だけが強いというのもだめでしょうね。

郷治:意識を変えて、両方とも高めていくような。片方を否定していくようなことではなくてね。お互いの悪口をいいあっていても仕方がありません。

起業家が社会を変革する

各務:新しい日本をベンチャーでと思っている若者が多く、それを力に変えていきたいですね。世界に打って出られるような人材が、本学からも出るといいと思っています。

 中には、おもしろい学生が本学にもいて、人的なネットワークでそこそこの動きが卒業生室等で出てきたり、アントレプレナー道場の同窓会に顔を出した昔の道場生が、会社勤めやベンチャー企業を立ち上げる中で、結構頼もしくなっていて、「あの時、こんなこと学びました」なんていわれると、こっちはうれしくなるんですが、本学で学んだことが蓄積されていっているみたいですね。

 自己実現をよしとすると思われがちなアメリカについていえば、スタンフォード大学だけがそうであって、他の大学は必ずしもそうではありません。

 たとえば、ハーバード大学だって保守的な大学です。ただ、ビジネススクールを出た学生だけは、ベンチャー企業を作ることが一番かっこいいと思っているので、そういう文化があるんですけど。ベンチャー企業を立ち上げることで、リスペクトされるんです。大企業に勤めたら、「お前、そんなとこ行くのか」ってバカにされる、それが一押しする。会社創らなきゃバカだっていわれるわけです。そういうカルチャーがあるかないかっていったら、結構大きいですよ。

郷治:初対面の人に会ったときにあいさつを交わす中で、以前はどちらにいたのかと聞かれて、「以前は経済産業省にいました」という話をしますと、日本人の場合であれば、「ああ、そうですか。ご立派ですね」というリアクションが返ってくることが多いです。でも、外国人に、「I have a bureaucratic background(官僚のバックグラウンドがあります)」というと、失笑されてしまうということがよくあるんです(笑)。「なにそれ」みたいなね。彼らからしてみたら、ありえないわけですよね。

各務:お世辞でいうわけではないんですが、郷治社長がUTECの創業に参画されたのは、結局、官僚として、本当に世の中を変えようと思ったら、アントレプレナーは極めて創造的な解決法だと思われたからだと思うんです。そういった独創的な方法があったからこそ、アメリカのベンチャーキャピタル事情は、多くの優秀な人物がベンチャーで成功し、その成功した資金で、さらにまたベンチャー企業を創る好循環ができています。

 一昔前の話になりますが、ベンジャミン・ローゼン、セブン・ローゼンという有名な人物がいった、こんなセリフがあるんです。

 「すべての投資は失敗した。でも、3つだけ成功してんだ。そのひとつ、ロータスっていう会社、知ってる? それから、シリコングラフィックス、もうひとつはコンパック」。

 その3社で、Googleの場合、800倍くらいの投資リターンがあったと思うんですね。もちろん彼らも、成功した事業家のひとりであって、その資金でもって事業を興したわけですから、ベンチャーキャピタルそのものがアントレプレナータってことが、大きい要素かもしれませんね。

産学連携本部事業化推進部部長の各務茂夫教授(左)と、㈱東京大学エッジキャピタル(UTEC)の郷治友孝社長(右)