サブワーキンググループのご紹介

SWG-1:価値の可視化

 

行政サービスの価値の可視化

(1)研究の目的

サービス分野の生産性は計測困難性を伴い、計測困難性の故に経営最適化の施策を合理的に立案、遂行、評価することも困難を伴います。しかし、産業構造に占めるサービス産業のGDPに占めるウェイトは、先進的市場経済においては非常に大きなものになってきています。発展途上国においても、サービス分野のGDPに占める割合は拡大基調にあります。

今日における高度情報通信技術の発展は、あらゆる分野において生産と消費の時間差を短縮するドライバとなって、「サービス化」を進展させています。サービスの提供者と利用者が同じ時間に同じ場所で会さないとサービスが成立しないという状況は、完全に消滅しています。このようなサービスの質や量の変化に対応して、生産者と利用者が相互作用するオープン・イノベーション(Producer-User-Interaction-Based Innovation)から生み出される価値を可視化し、評価する手法を確立しなければなりません。

そこでSWG-1では、ネットワーク社会におけるサービス価値を可視化し、評価手法を設計することを目指して、「サービスサイエンス」(従来経験や勘が重視されてきたサービス分野を科学的対象として解析し、仮説とモデルを用いてさまざまなサービスの最適性を導出しようとするもの。諸科学の知見を積極的に活用することが求められる)という新しい複合科学における知見を取り入れながら、価値の可視化に関する研究を推進します。

(2)研究の経緯と今後の方向性

2006年度は、行政サービスの価値の可視化に関する研究を行いました。行政サービスは価値の可視化がとりわけ困難なため、サービス全般の価値評価に対しても有効であると期待しています。

今後のSWG-1の取り組みとしては、大きく二つの方向性で、サービス価値の可視化に関する研究を行う予定です。

①個別サービスのイノベーションに関する研究

行政サービスや医療サービスといった個別の領域に対して、真に魅力あるサービスの創出に向けた取り組みを行います。直近の取り組みとしては、内閣官房が昨年に実施したオンライン申請システムの利用に関する調査データを分析します。そこから得られる知見を元に、現在のサービスに欠けている点を明らかにするとともに、行政サービスのあるべき姿を描きます。そして、現状のサービスレベル、および理想像とのギャップを的確に表現する指標とその評価手法を開発します。また、地域ケアシステムにおけるマネジメント等のヘルスケア分野に関する評価・分析も視野に入れて推進していきます。

②サービス全般の価値評価手法に関する研究

高度情報ネットワーク時代に対応した、21世紀型のサービス価値評価手法を構築すべく、広く関係者を巻き込みながら、活動を展開します。本研究分野はまだ緒に就いたばかりであり、我々が取り組むべき課題は山積しています。価値の可視化は、サービスの最適化やサービスの創発を行う際にも必須であり、いわばサービスイノベーションのベースとなる技術です。したがって、サービスイノベーション研究会として取り組むべき重点テーマの一つとして位置づけて、研究を推進していきます。

SWG-1 メンバー

主査: 須藤 修 教授(情報学環)
幹事: 赤津 雅晴 部長(日立製作所)
メンバー: 南谷 崇 教授(先端科学技術研究センター)
  丸山 力 特任教授(大学院工学系研究科)
  後藤 玲子 准教授(茨城大学人文学部社会科学科)
  亀谷 祥治 教授(日本大学グローバルビジネス研究科)
  中林 歩 氏(富士通総研)
  細野 繁 氏(日本電気)
  吉川 裕 氏 (日立製作所)
  中川 忠輔 氏(日立製作所)
  原 辰徳 氏(工学系研究科)

 

事例1:電子行政サービスの価値評価

電子行政は、産・官・学・民が共創的に新たな情報や知識を創出し、イノベーションの連鎖反応を組織する基盤にもなりうるでしょう。そこで、電子行政に関するデータを収集し、そのデータを分析することによって合理的な行政サービスの価値指標と評価手法を提案すると同時に、行政組織の最適化モデルを進化させることを目的として、行政サービスの価値評価に関する研究に取り組んでいます。

具体的には、まず、電子行政サービスの価値創出プロセスを体系化して、「電子行政サービスの価値連鎖モデル」(図1)を明らかにし、行政サービスの価値指標、価値評価手法、定量的計測・計算方法、及び、価値のガバナンス手法について、SWG-1メンバーの専門的知見を結集して検討します。さらに、内閣官房が実施した電子申請サービスに関するパイロット調査(利用者実感調査)について、その分析枠組みを「利用者の状態遷移モデル」(図2)として定式化し、「電子行政サービスの価値連鎖モデル」と関係付けて、オンライン行政サービスの価値評価・品質設計を行うための構造化を進めます(図3)。今後データを用いた実証研究を進めることにより、行政サービスの価値とその連鎖構造を可視化します。行政サービスは価値の見える化がとりわけ困難であるため、サービス全般の価値評価手法に対しても有効であると期待しています。

電子行政サービスの価値連鎖モデル

図1 電子行政サービスの価値連鎖モデル(後藤作成)

電子申請パイロット調査に基づく評価の枠組み

図2 電子申請パイロット調査に基づく評価の枠組み(吉川作成)

狩野モデルを用いた関係付け

図3 狩野モデルを用いた関係付け(吉川作成)

参考文献

須藤修=南谷崇=中川忠輔=吉川裕=後藤玲子=丸山力=亀谷祥治=細野繁=原辰徳=赤津雅晴 [2007]『UCR-WGサービスイノベーション研究会SWG1「価値の可視化」中間報告書』.

須藤修[2007]「情報爆発時代における知識社会形成ガバナンス」『人工知能学会誌』,22(2), pp.235-240.

後藤玲子[2006]「電子行政の政策評価」『情報処理学会研究報告』,2006-EIP-34, pp.107-114.

後藤玲子=須藤修[2007]「分権化時代の電子自治体と公共ガバナンス」『国際CIO学会ジャーナル』,Vol.1,pp.25-33.